腎臓病の方の行事食
腎臓病(第13章)

腎臓病の方の行事食のポイントを紹介

腎臓病 (13章-1) 腎臓病の方向けのおせち

腎臓病の方が召し上がるおせちのポイントを紹介しています。

腎臓病の方向けのおせち料理

 お正月料理の代名詞といえば「おせち料理」。どのようないわれがあり、いつごろから、日本に伝えられてきたものなのでしょうか。歴史を紐解くと、奈良時代のころまでさかのぼります。発祥については諸説ありますが、当時の日本の習慣に、中国の暦にまつわる行事の影響が加わって、後に「食」との関連を深めながら、年頭のお祝い料理として一般化していったと考えられているようです。
 しかし、古の日本のお正月にどんな料理がどんなスタイルで用意されてきたのか、詳しい変遷などははっきりと明らかにはなっていません。重箱に詰められたものが伝統的で、正統なおせち料理のイメージとされていますが、江戸時代のころまでは、必ずしもそうではありませんでした。江戸の後期にあたる文化のころになると、数の子、田作り、たたきゴボウ、煮豆などを重箱につめた、現在のおせちに近いものが用意されるようになったようです。地域の違いもあり、土地によっては野菜の煮物やアワビ、スルメ、などを入れることもあったといいます。いつ食べるかについても、ほとんどが大晦日までに作られて、元日に開けられるようですが、稀に年末に食べ始めるというところもあるようです。

 昨今では料理の品数やバリエーションが豊富になり、家庭で調理するだけではなく、飲食店や百貨店でもおせち料理のセットなどが販売されていることは、ご存じの通りです。なかでも、健康を気づかったヘルシーなおせち料理は年々人気が高まっており、とくに生活習慣病などの方も安心して食べられるタイプや、アレルギー対応に配慮されたタイプなどが、たくさんの人に喜ばれているようです。何かと気ぜわしい師走でも、大晦日に間に合うよう、ネットや電話から予約注文をすることができる点でも便利でしょう。
 腎臓病の人向けに、たんぱく質や塩分の量を調整しながら、多種多様な料理を揃えたおせち料理などもあります。昨今では調理や食材の工夫がすすみ、美味しく仕上げられた評判のものもありますから、利用されるのも一つの手かもしれません。

 市販のおせち料理を用意する場合などは、腎臓病の方向けにどのような配慮が必要でしょうか。賢い食べ方のポイントを押さえて、体に負担をかけずに、お正月のグルメを楽しみたいものです。
 腎臓病の方の食事療法の基本とされるのは、塩分の制限と摂取カロリーの調整です。体調や健康状態によっては、たんぱく質の摂取量を制限したり、また、カリウムやリンを制限することが必要となる場合もあります。
 一般的なおせち料理は、保存性を高めるなどの目的で、味付けが濃く、塩分多めに仕上げられていることがほとんどです。なかでも塩分に気を付けたいメニューは、松前漬け、棒鱈、昆布巻き、かまぼこ、松風焼き、田作り、数の子、伊達巻き、魚介類の甘煮など。市販のものなら、塩分だけではなく、砂糖もたっぷり含まれている場合があります。カロリーオーバーにならないためにも、一人前をしっかり食べてしまうのではなく、味見程度に留めたいものです。

 家庭で調理する際には、思い切って塩やしょう油の分量をカットしてしまいましょう。まずはだしをしっかりとって料理を仕上げ、味付けが必要な場合は、しょう油や水で溶いた塩を料理の上から塗ると、使う分量はわずかで済みます。魚介類は、2回、3回としっかりと塩抜きをしたり、甘煮にせずに酒蒸しにするなど、調理にも一工夫を施せば、塩分はかなり控えられるはずです。
 厚焼き玉子や、野菜やこんにゃくなどの煮しめ、なます、たたきごぼう、栗きんとんなどは、塩分量から見るとさほど心配はないようです。ただし、こちらも調理法などによって栄養成分には差が出てきますから、市販のものを使うよりは、手作りが安心でしょう。ハーブ、スパイス、しょうが、にんにくなどをプラスすると風味に変化が生まれますし、新しく美味しいおせち料理の味が見つかるかもしれません。
 また、塩分(ナトリウム)の排出を促すカリウムや食物繊維を含む食材を活用するのも、一つの方法です。たとえば、厚焼き玉子やかまぼこなどに大根おろしをたっぷり添えたり、栗きんとんにリンゴの角切りを加えたり、紅白なますにシメジやワカメなどを加えると、ヘルシーになり、食べ応えもアップします。

 おせち料理には、普段はあまり食べない、くわい、ユリ根、チョロギといった野菜が用いられることがあります。くわいは「芽が出る」ことにちなんだ縁起物。ユリ根は食用ゆりの球根で、子孫繁栄の意味があるとされ、飾り切りにも便利です。チョロギシソ科の植物の地下茎で、「長寿喜」といったおめでたい漢字が当てはめられる食材です。
 これらの食材も、塩分量などは調理法によって異なりますが、一度にたくさん食べる類のものではないので、さほど神経質に避けたりする必要はないでしょう。
 塩分、たんぱく質のほか、カリウムやリンなどの摂取量を控える食事制限をされている方や、腎透析などを受けられている方は、事前にかかりつけ医や管理栄養士などに、おせち料理やお雑煮などを含めた献立について、相談をしておくと安心でしょう。

腎臓病 (13章-2) 腎臓病の方向けのひな祭り

腎臓病の方が召し上がるひな祭りの食事のポイントを紹介しています。

ひな祭りの献立で春の味覚を楽しもう

 一雨ごとに寒さが解消され、気温の高まりを感じられる三月。三月三日の「桃の節句」を迎えると、気温は低くても気持ちは一気に春めいてきます。
 ちらし寿司や蛤のお吸い物(潮汁)といったひな祭りの行事食や、春が旬の食材を味わうことで、味覚からも季節の移り変わりを楽しむ献立にしたいものですよね。
 ちらし寿司の具材としては、一般的に、絹さや、錦糸卵、干ししいたけ、うなぎ、あなご、かんぴょう、海鮮、レンコンなどが使われることが多いようですが、腎臓病の人には、サラダ風にアレンジした、手作りのちらし寿司がおすすめです。
 まず、ご飯はできれば低たんぱく質のタイプを選び、エネルギー量(カロリー)が不足しがちな場合には、マヨネーズを少し加えることで増やしましょう。酢飯を作る際に使う塩は、少し減らします。
 具材は、うなぎや海鮮の代わりにハム、ツナを選ぶよりも、かに風味かまぼこにしたり、きゅうり、レタス、甘酢ショウガなどを選ぶようにすると、たんぱく質の量はぐっと控えめにできるでしょう。味付けも、つけしょう油を使うのではなく、薄味を意識して瓶詰めの「えのきたけ」や「しば漬け」をごく細かく刻んでトッピングするようにすると、塩分量をさらにセーブできます。

デザートにはフルーツポンチがおすすめ

 蛤のお吸い物も、塩抜きをしっかりして、塩分を控えるように気を付けましょう。千切りにした春野菜などを加えると、カリウムの量は増えますが、野菜の甘味や出汁が加わって、よりおいしくいただけます。
 デザートは菱餅や雛あられではなく、低たんぱく質・低カリウムで安心の、フルーツポンチがおすすめです。生の果物を使うとカリウムやたんぱく質が多くなりますが、みかんやりんごの缶詰を使うと、たんぱく質、カリウム、塩分ともに控えめになり、エネルギーはしっかりとることができます。
 缶に残っているシロップに少量の野菜ジュースなどを加えてゼラチンで固め、ゼリーを作るアイデアもあります。フルーツポンチに加えれば、菱餅や雛あられには負けないカラフルなデザートの出来上がりです。

腎臓病 (13章-3) 腎臓病の方向けのお花見

腎臓病の方が召し上がる七夕の頃の食事のポイントを紹介しています。

お花見は平安時代から行われていた

 桜前線の北上とともに、春の行楽シーズンがやってきます。毎年、桜の開花のニュースを楽しみにされている人も、多いのではないでしょうか。
 桜は日本に咲く花の中でも、とりわけ古くから愛されてきた花の一つです。「花見」は単なるレジャーではなく、平安時代のころは貴族の行事の一つであったと考えられています。
 鎌倉時代や室町時代の書物や絵画にも、お花見の様子はたくさん描かれており、豊臣秀吉も野外での大規模なお花見を好んだことで知られています。なかでも慶長三年に行われた「醍醐(だいご)の花見」は有名で、招待客は千人を超え、女性たちの衣装替えなども行われたという記録があるそうですから驚きます。
 その後、時を経て江戸時代になると、庶民の間にもお花見が広まり、一般的な風習として定着していきました。お花見が現在も人気のレジャーであることは、ご存じの通りです。桜の美しさは、時代を問わず日本人の心を惹きつけてきたのです。

春の食材をシンプルな調理法で

 お花見に欠かせないグルメといえば「お花見弁当」。売っているお弁当を買うのも楽しみのひとつですが、一般的な弁当に入っているおかずは、保存のために濃い味つけが多く、肉やたまご、チーズなどの乳製品が多用され、あまり腎臓病の方向きではありません。旬の食材をたくさん取り入れたお弁当を作って、見た目や味覚からも桜の季節を満喫できるでしょう。
 例えば、少量のえんどう豆と新生姜の混ぜご飯をおにぎりにして、鯛や鰆(さわら)、山菜などの天ぷら、ワカメや大根の酢の物、アスパラガスや菜の花のお浸しなど。出汁をしっかりとり、素材の味そのものを楽しむ、シンプルな和食の調理方法がいいでしょう。少しずつ多種類を盛り付けるのがおすすめです。
 食塩はなるべく控えめにして、低たんぱく質タイプのご飯や小麦粉(天ぷら衣)を選ぶようにすると、塩分やたんぱく質の摂取量を抑えられます。また、たんぱく質を抑える分、エネルギー(カロリー)が必要になります。植物油は少量でもエネルギーが高いので天ぷらを揚げるのに適しています。より細かい食事療法などを行っている人は、主治医や栄養士に相談をしながらメニューを決めるようにしてください。
 ひと手間加えて、桜の花の塩漬けを塩抜きしたものをご飯に散らしたり、にんじんなどの野菜を型抜きで桜の形にカットしたりすると、春らしさがいっそう際立つ素敵なお花見メニューになります。
 お出かけの際には、温かいハーブティーや、上着やブランケット、使い捨てカイロなども用意して、防寒対策を忘れずに。体を冷やさないように注意をしながら、今年も元気にお花見を満喫しましょう。

腎臓病 (13章-4) 腎臓病の方向けの七夕

七夕の行事食は織り糸に似た「そうめん」

七夕の行事食は織り糸に似た「そうめん」

 七夕は日本の重要な節句である、五節句(*)の一つ。起源は諸説ありますが、古来の中国に伝わる「乞巧奠(きこうでん)」という、裁縫や技芸の上達を祈るためのお祭りや、七月に織物などをして禊(みそぎ)をする、日本の「棚機(たなばた)」の風習などが組み合わさって、やがて現在のような七夕の行事になったといわれています。
 織姫と彦星の年に1度の逢瀬にまつわるロマンチックな伝説や、七夕ならではの美しい飾りつけは人気があり、他の行事にはない艶やかさが感じられます。
 七夕には「そうめん(素麺)」を食べる風習がありますが、これも織姫が織物に使う糸がそうめんに似ているからという説と、中国で七月七日に食べられる「策餠(さくべい)」という長細いお菓子に由来するという説などがあるようです。

*「節句」とは季節の区切り。五節句は人日、上巳、端午、七夕、重陽と一年に五度。

麺や小麦のたんぱく質に注意をする

 小麦粉が材料であるそうめんは、たんぱく質が多いため、腎臓病の方は量を控えめにするか、低たんぱく質のタイプを選ぶとよいでしょう。また、つゆは減塩タイプを選ぶか、減塩しょうゆで手作りをするなどして、塩分をとり過ぎないように気を付けましょう。
 しそ、しょうが、みょうが、ねぎ、大根おろしなどの薬味を少量ずつ添えたり、輪切りにしたオクラを添えたりすると、見た目が華やかになり、七夕らしい盛り付けになります。星型で抜いたハムや大根、にんじんなどを乗せても喜ばれるでしょう。ごま油やラー油、コチュジャンなどをつゆに少し加えても、風味が変わっておいしくいただけますし、カロリーも増やすことができます。
 おかずは夏らしく、鶏のささみやえびの天ぷらなどはいかがでしょうか。揚げ衣にも低たんぱく質のタイプの小麦粉を使うと安心です。
 また、塩や天つゆではなく、そうめんのつゆを使って、余分な塩分をとらないように注意をします。ピーマンやしそといった夏野菜の素揚げなどを添えれば、さらに夏らしく、季節感のある献立になります。 ビタミンやミネラル、エネルギーを補給できるように、蒸し野菜のオリーブオイル和えや、野菜の炒め煮などをプラスすることで、栄養のバランスを整えましょう。

腎臓病 (13章-5) 腎臓病の方向けのクリスマス

腎臓病の方が召し上がるクリスマスの食事のポイントを紹介しています。

1年でいちばん、街中がウキウキした気持ちになる季節

 12月に入ると、街はすっかりクリスマスのムード一色に。輝くイルミネーションやクリスマスツリー、サンタクロース人形などの飾りつけが、あちこちに姿をみせ始めます。
 12月25日のクリスマスは、イエス・キリストの誕生を祝うお祭りですが、日本ではパーティーをしたり、プレゼントを贈り合ったりして楽しむイベントという色合いが強いでしょう。
 この季節は、冬休みの子どもたちの楽しそうな様子などを目にする機会も増えて、大人もどこかウキウキした気持ちになります。せっかくですから、食事からもクリスマスの明るさを感じられるように、献立なども少し工夫してみてはいかがでしょう。

野菜はゆでてカリウムを調整

 クリスマスといえば、やはり鶏肉を使った料理が定番です。チキンのソテーやフライドチキン、レモンを乗せたグリル焼きなどを、献立のメインに据えてはいかがでしょうか。
 ただ、鶏肉にはたんぱく質が多く含まれているので、食べる分量には注意しましょう。たんぱく質を多く摂りすぎると腎臓に負担がかかり、腎臓病の方は特に注意が必要です。たんぱく源の中でも鶏肉などの動物性たんぱく質には腎臓内の血流をよくする効果もあるので、適量ならば心配する必要はありません。サイドメニューには、コンソメスープ、カレー味のスープ、香味野菜を使ったスープといったスープ類や、さらに、温野菜のサラダ、フルーツなどで栄養のバランスをとりましょう。
 腎臓病の人へのおすすめは、チキンの味付けが濃いぶん、スープやサラダなどを薄味にして、献立にメリハリをもたせることで、塩分量をコントロールすることです。
 温野菜のサラダは、電子レンジ調理はせずしっかりとゆでこぼして、カリウムの量をカットしましょう。きのこ類や春雨などを少しプラスすると、食べ応えや満足度がアップします。オイルやドレッシング、チーズなどを振りかけて、必要なエネルギー量をしっかりと確保しましょう。
 同様に、ときにはメインの料理など、どれか一品はしっかりと味付けして、残りを薄味に仕上げることでメリハリをもたせて、献立全体で塩分量をコントロールしてみてはいかがでしょうか。
 全ての料理の味付けをなんとなく薄くするのではなく、ときには味のしっかりした好物を食べて楽しむことも、食事療法を無理なく続けるコツの一つです。