脂質異常症の予防
脂質異常症(第4章)

過食や高脂肪食はNG!脂質異常症を防ぐ食の工夫

脂質異常症 (4章-1) 脂質異常症を予防する基本は食事改善

脂質異常症にならないためには生活習慣の改善が欠かせません。
とりわけ食事に目を向け、規則正しく栄養バランスを心がけることが大切です。
具体的にどんな食習慣が望ましいか。ここでは食生活の改善策について触れます。

予防は食生活の改善が基本

 脂質異常症を起こす人の多くに、過食や高脂肪食などの悪い食習慣が見られます。病気の発症や進行を防ぐには、毎日の食事を見直して改善することが大事です。ただし脂類を一切取らなかったり、野菜だけを食べたりといった偏った食事をすれば、必要な栄養素が不足してしまいます。常に、栄養バランスが整った食事を1日3食取ることを心がけましょう。なお、日本動脈硬化学会では伝統的な日本食「The Japan Diet」をすすめています。食事のポイントなどをまとめているので、参考にするとよいでしょう。

食物繊維を多めに

 脂質異常症を予防するために効果があるものの1つが、食物繊維を多く含む食材です。ゴボウやニンジン、大根などの根菜類、イモ類、キノコ類、コンニャク、海藻類、果物などは食物繊維を豊富に含んでいます。食物繊維は1日あたり25~30gを摂取するのが望ましいでしょう。

食物繊維を豊富に含む主な食材

 ご飯は白米よりも玄米や胚芽米の方が、パンなら精白パンよりもライ麦パンや全粒粉のパンの方が食物繊維を多く取ることができます。毎食の主食を代えるだけでも、無理なく摂取量を増やすことができます。
 ただし腸の弱い人は、食物繊維を取ることによって胃腸の症状を悪化させてしまうことがあるので注意してください。
 ビタミンAやビタミンC、ビタミンEは、動脈硬化を促進する活性酸素の発生を防ぐ「抗酸化作用」があります。ビタミンAはニンジンや小松菜、レバーなどに多く含まれています。ビタミンCはサツマイモやゴーヤー、ブロッコリー、果物類などに、ビタミンEはカボチャ、アーモンド、ホウレンソウ、ウナギなどに多く含まれています。

ビタミンを豊富に含む主な食材

 EPA(エイコサペンタエン酸)には、中性脂肪を減らす働きがあります。サバやイワシ、アジといった青背魚に豊富に含まれているので、こうした食材を積極的に食べるようにしましょう。また、コレステロールや中性脂肪に直結する牛、豚、鶏などの動物性脂肪を減らし、その代わりに魚や植物の油を多くするといった工夫も必要です。

食べ方に注意する

 摂取エネルギーを減らすには、食事の内容だけでなく取り方にも注意が必要です。まずは1日3食、規則的に食事を取ることが大切です。バランスのよい食事をできるだけ決まった時間に取ることで、生活リズムを整えます。
量は腹八分目を守りましょう。今までの食生活でコレステロールや中性脂肪が高かった人は、食事の量を8割に抑えます。ご飯や惣菜の盛りすぎを防ぐため、食器をやや小ぶりなものに代えてもよいでしょう。
 「よく噛んで食べる」のも効果的です。しっかり噛むと満腹中枢が刺激され、食べすぎを防ぐことができます。根菜類やコンニャクのような食物繊維を豊富に含む食材はおのずとよく噛むようになるので、積極的に献立に盛り込むようにしましょう。おなかの中でカサを取るので満腹感をえやすいメリットもあります。
 ぜひ避けてほしいのが、肥満に直結する早食い、ながら食い、まとめ食いです。早食いをすると、なかなか満足感をえられません。その結果、ついつい食べすぎてしまいます。また、ながら食いやまとめ食いをすると、1回の食事量や食事時間が定まらず、過食気味になります。
 ほかには、食事の満足感をえやすいように、好きなものを先に食べるのも工夫の1つです。また、だらだらと食事するのを避けるため、手の届くところに食べ物を置かないことも一案です。外食では丼物より定食を選ぶようにします。丼は早食いになりやすいだけでなく、ご飯の量が多いわりに野菜が少なく、栄養バランスが必ずしもよくありません。
 また、寝る直前に食べたものはエネルギーとして消費されず、脂肪として体に蓄積されてしまうので、食事は寝る2時間前までに取るようにしましょう。

脂質異常症 (4章-2) 運動を習慣化して生活の中に取り入れよう

脂質異常の状態を解消するには、食生活改善はもとより運動することが大切です。
運動する習慣を取り入れたり、日常生活の中で体を動かす工夫を施したりして、
脂質異常症予防に努めましょう。

運動がもたらす健康効果

 脂質異常症を防ぐには食生活の改善だけでなく、運動も効果的です。運動は、取りすぎたエネルギーを消費して脂肪の蓄積を抑えるだけでなく、血行をよくして血管を広げ、動脈硬化を防いだり、脂肪の流れを促す酵素(リパーゼ)を活性化することでLDLコレステロールを減らし、HDLコレステロールを増やしたりします。さらに、血圧を下げる、血糖値を改善する、心身をリラックスさせる、気分転換になるなど、さまざまな効果を期待できます。
 運動不足で体力、特に持久力が低下すると、動脈硬化が進みやすく、がんを含めたさまざまな病気による死亡率が高くなることが明らかになっています。食生活の改善と合わせて、適度な運動を行いましょう。

有酸素運動が効果的

 一口に運動といってもいろいろな種類がありますが、カロリーを消費する上で最も適しているのは「有酸素運動」です。有酸素運動は、15分以上続けると効率よく脂肪が燃え出すため、1回15分以上続けましょう。できれば 1日30分程度(1週間で合計180分以上)を毎日行うのが理想です。
 有酸素運動の中でも、散歩やウォーキング、軽いジョギングであれば特別な道具は必要なく、すぐに始めることができます。運動慣れしていない人には取り組みやすいのではないでしょうか。近所にプールがあれば、水中歩行やアクアビクス、水泳などもおすすめです。
 「やらなければいけない」と使命感で取り組むと継続するのが難しくなってしまいます。運動は楽しみながらやることが大切です。周囲の風景を見ながらウォーキングする、1人ではなく家族と一緒に取り組む、毎日違う場所を目指してジョギングするなど、自分なりの楽しみ方を工夫してみましょう。
 運動の強さは、心拍数が110~120/分程度を目安にします。「ちょっとキツいけどなんとか続けられる」という程度にとどめましょう。くれぐれも無理はしないように、まずは続けることが大事です。

日常生活の中で運動する方法を

 ジムやプールに行ったり、出勤前や帰宅後に軽くジョギングしたりする時間を確保できず、「毎日運動する時間を作るのは難しい」という人もいるでしょう。
 その場合は、現在の生活パターンを変えずに運動する方法を考えましょう。例えば、エレベーターやエスカレーターを使わずに階段を使う、通勤時に1駅分、あるいはバス停1つ分歩く、駅まで自転車ではなく歩く、といったことを心がけてみてください。毎日行うのが厳しければ、まずは週3回を目標にしましょう。普段の生活で行う場合も無理をしないことがポイントです。

運動の注意点

 まったくの健康体で予防的に取り組むわけではなく、すでに脂質異常という人の場合、血圧や血糖値が高いケースが少なくありません。現在、治療中の病気がある場合、運動の種類や量によっては体に負荷をかけすぎてしまう危険があります。運動に取り組む前に、主治医にどのような運動が可能か確かめておきましょう。
 運動の基本は有酸素運動ですが、余裕があればスクワットなどの筋力トレーニングも取り入れましょう。筋肉がつくと基礎代謝が上がるため、普段の生活だけでエネルギーを多く消費するようになります。ある程度の筋肉をつけた方が、有酸素運動の効果も高められます。
 また、有酸素運動の前に体を軽くほぐすストレッチを行うと代謝が上がり、脂肪が燃焼しやすくなります。運動後もストレッチを行い、筋肉をほぐすことを忘れないようにしてください。

運動前にストレッチすることで運動効果を高められる

 脂肪を燃焼しやすくなるため、運動前には十分なストレッチを行うのが望ましい。運動後もストレッチして筋肉をほぐしておく。
暑い日や汗を多くかくときは、こまめに水分補給することを忘れてはなりません。体調や天候が悪いときは、習慣だからといって無理をせずに休むことも大切です。

脂質異常症 (4章-3) 喫煙や飲酒、ストレスに注意

脂質異常症にならないようにするには、
喫煙や過度の飲酒、さらには日々のストレスをためないようにすることが大切です。
脂質異常の要因となる生活習慣に注意し、健康な体を保つことが必要です。

動脈硬化のリスクを高める喫煙

 タバコの煙には4,000種類以上の化学物質が含まれ、そのうちの約200種類が有害物質です。喫煙が引き起こす健康被害は深刻で、脂質異常症も例外ではありません。喫煙者はHDLコレステロール値が低値です。喫煙は動脈硬化の最も高いリスク因子で、有害物質の代表格ともいえる「ニコチン」には強力な血管収縮作用があるため、喫煙すると血圧が上昇し、血流が悪くなってしまいます。
 さらに、煙に含まれる一酸化炭素は血液中のヘモグロビンと結合しやすいため、血液に取り込まれて、全身組織の酸素欠乏状態を引き起こします。その状態を補うために多量の血液が産生されることで血液はドロドロになり、血の塊(血栓)ができやすい状態になってしまうのです。

一酸化炭素が酸欠状態を招く

 タバコの煙に含まれる一酸化炭素は、血液中のヘモグロビンと結合すると全身が酸素欠乏状態になる。血液がドロドロになって動脈硬化に陥りやすい。

 タバコを吸うことによって生じる活性酸素も、血管内皮を障害し、さらなる血栓の形成や塞栓(そくせん)症の発症を促します。一方、活性酸素によって酸化され、変性をきたした脂質は、血管の内側にじゅくじゅくした粥腫(プラーク)を作り、動脈硬化を進行させてしまいます。
 一方、脂肪細胞から分泌されるホルモンの一種であるアディポネクチンは、インスリンの作用を助けて血糖値を下げる役割を果たします。しかし内臓脂肪が増加して脂肪細胞が肥大化すると、分泌は減少します。アディポネクチンはタバコを吸うことによっても減少し、喫煙者と非喫煙者の間ではアディポネクチンの血中濃度には明らかな差があることも確認されています。喫煙によって、ニコチンが脂肪細胞からの遊離脂肪酸の分泌を促進することも分かっています。
 タバコの害は喫煙者のみではなく、周囲の人にも悪影響をおよぼします。副流煙(タバコの煙)による受動喫煙の場合、喫煙者と同じ、またはそれ以上のリスクがあるといわれています。タバコを吸う人は、自身はもちろん家族のためにも禁煙にチャレンジしてください。

過度な飲酒が肥満などのリスクに

 「酒は百薬の長」という言葉通り、お酒は適量なら体によい影響をおよぼします。しかし過度な飲酒は、体にさまざまな悪影響を与えます。脂質も同様で、アルコールは肝臓での中性脂肪の合成を増加させます。多量に飲酒すると中性脂肪の合成が過剰になり、肝臓の外に分泌されて高中性脂肪血症の原因となります。さらに、高中性脂肪血症から急性膵炎(すいえん)を発症することもあります。
 一方、動脈硬化を抑える働きをするHDLコレステロールは、飲酒量に比例して増加します。「HDLコレステロールが増えるのはよいこと」と思われますが、多ければよいわけではありません。多量の飲酒を長期にわたって習慣化している人は「高HDLコレステロール血症」という病態を引き起こします。高HDLコレステロール血症は、虚血性心疾患を合併することもあります。なお、適度の飲酒は心筋梗塞の発症が低いことが示されています。
 アルコールのもう1つの問題は、「カロリーが高い飲みものが多い」ということです。アルコールの取りすぎは肥満、とりわけ内臓脂肪型肥満やメタボリックシンドロームを引き起こし、動脈硬化も進行させてしまいます。血液検査で脂質の値が高めの人は、飲酒量を控えるようにしましょう。特に高中性脂肪血症の人は注意が必要です。

過度な緊張やストレスは体調に変化も

 人はストレスを感じると交感神経が刺激され、血圧や血糖値が上昇します。それに反応して、抗ストレスホルモンと呼ばれる「コルチゾール(副腎皮質ホルモンの1つ)」を分泌し、血圧や血糖値を下げようとします。そのため、副腎皮質ホルモンの材料であるLDLコレステロールが血液中に増えてしまうのです。
 また、疲れたりストレスを感じたりすると、甘いものを食べたくなったり、ドカ食いをしたくなったりと食生活が乱れがちになります。高カロリーの食事を続ければ、おのずと脂質も取りすぎてしまうことになります。
 ストレスを完全に取り除くのは難しいことですが、普段からリラックスした生活を心がけ、ストレスをため込まないことが大事です。