高血圧の人は年々増加していると思われがちですが、
実際は必ずしも急増しているわけではありません。
女性に限れば減少傾向で、血圧の平均値も徐々に下降していることが分かっています。
厚生労働省が実施する調査の1つ「NIPPON DATA 2010」によると、30代以上の男性の60%、女性の45%が高血圧という結果でした。30代以上に限れば、「2人に1人が高血圧」といえるほど多くを占めています。
2010年時点での高血圧患者数(有病者数)は、男性が2,300万人、女性が2,000万人となっています。年代別では男性の場合、60代が580万人と最も多く、50代(510万人)、70代(470万人)と続きます。女性の場合も60代が590万人と最も多く、70代(510万人)や80代(340万人)が上位を占めています。
加齢とともに割合は増えています。50代以上の男性と60代以上の女性に限れば、高血圧の人は60%を上回っています。特に男性の場合、70代をすぎると10人中8~9人が高血圧になります。
高齢化社会を迎える日本にとって高血圧を患う人は今後、さらに増えることが予想されます。日本高血圧学会が発行する「高血圧治療ガイドライン 2014」でも、「男性の50代以上の患者数などを見ると、横ばい、あるいは増えていく傾向にある」と記されています。
しかし、すべての世代で患者数が増えているわけではありません。年代によっては血圧の平均値は下降しています。
「高血圧治療ガイドライン 2014」によると、50代男性の場合、収縮期血圧は1961年の147.2mmHgから2010年には137.2mmHgに下降しています。50代女性の収縮期血圧も、1961年の147.0mmHgから2010年には129.7mmHgと下降しています。拡張期血圧は横ばい、あるいはわずかな下降にとどまる年代が多いものの、各年代の収縮期血圧の平均値は、男女ともに10~20mmHg下降しています。
出典:日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2014」
降圧剤を服用する高血圧患者の割合が過去30年間にわたって増え続け、血圧をコントロールできるようになったことが要因の1つに考えられます。高血圧予防に関する啓発が奏功したのかもしれません。いずれにせよ、高血圧に対する意識の高さが、血圧の上昇に歯止めをかける要因となっているようです。
高血圧によって引き起こされることの多い脳卒中の死亡率も、1960年代をピークに減少しています。高血圧患者の割合が全体的に減ったことが、ほかの病気を引き起こす割合も下げていると考えられます。
とはいえ、血圧の平均値は下降気味と楽観視するのは早計です。高血圧患者が減っているものの、脳卒中などの脳血管疾患を原因とする死亡者数は依然として高い水準を推移しています。高血圧を治療して正常値に戻ったとしても、気を緩めることなく血圧をコントロールしていくことが大切です。
血圧は日々の生活と密接に関係しています。食生活が乱れたり運動しなかったりする日が続けば、これまで正常値だった血圧がすぐに上昇してしまいかねません。日々の変動に一喜一憂することなく、1週間、1カ月、3カ月、6カ月…といった期間の変動を読み取り、継続して高血圧対策に取り組むことが欠かせません。
健康への意識が高いと言われる日本でさえ、高血圧に悩む患者は多くいます。
では、海外における高血圧患者はどれくらいいるのでしょうか。
世界で取り組む治療の動向とともに見ていきましょう。
高血圧患者が多い地域や少ない地域など、エリアによる差異はあるのでしょうか。多くの治療法を取り入れる日本と異なり、経済的な理由で適切な治療を受けられない地域があるようです。
各国の平均所得を比べると、所得の高い国ほど投薬などによる治療を受けやすく、高血圧患者は減少傾向にあります。WHO健康開発総合研究センター(WHO神戸センター)によると、1980年の欧州では成人の約40%、米国では成人の約31%が高血圧でした。しかし、2008年ではその割合がそれぞれ30%、23%に減っています。治療技術やスキルの向上、医療制度の改善などを背景に、欧州や米国といった先進国では高血圧患者の割合は減少しています。
これに対し、アフリカでは成人の40~50%が高血圧といわれます。患者数は増加傾向で、治療によって改善する環境が十分整備されていないことが要因の1つと考えられます。
米医学誌の「サーキュレーション」が発表した米国研究チームの分析結果によると、高血圧の人は低~中所得国に多く、世界の全人口の4分の3が低~中所得国に集中しているそうです。高所得国と低~中所得国における高血圧患者数の格差は今後、一層拡大することが見込まれています。
なお、同研究チームは2014年までの20年間に、90カ国で発表された135件(約97万人)のデータをもとに、高血圧患者の今後の推移を分析しています。2000年は9億2,100万人だった世界の高血圧患者数が、2010年には13億9,000万人まで増えると予測しています。
高血圧の治療に目を向けると、その研究は日々進歩し、新たな動きが模索され続けています。
日本の大学などで構成するグループは2011年、世界規模の遺伝子解析を実施し、遺伝子と高血圧の関係をひもときました。具体的には欧米人(約20万人)、東アジア人(約3万人)、南アジア人(約2.4万人)などのデータを解析し、人種ごとに高血圧と関係する遺伝子が数種類あることを突き止めました。欧米人は28種類、東アジア人は9種類、南アジア人は6種類の遺伝子が高血圧と関係していたといいます。横浜市立大学、愛媛大学、大阪大学、滋賀医科大学、東北大学、国立循環器病センターの教授らのグループが発表したこの内容は、医学雑誌「ネイチャー」にも掲載され、話題となりました。
事前に特定の遺伝子を保有しているか検査しておけば、個々の高血圧患者に対して適切な治療方針や予防策を打ち出せるようになります。遺伝子との因果関係がより明確になれば、こうした新たな治療や予防が現実味を帯びてくるのかもしれません。